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胃潰瘍発症の仕組み解明
バイオ】発信:2003/03/18(火) 09:18:38  

   岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所の野田正晴・教授らの研究グループは、胃炎や胃潰瘍の原因であるヘリコバクター・ピロリ菌が胃潰瘍を引き起こす仕組みを明らかにした。ピロリ菌の分泌するVacA毒素が胃粘膜の細胞膜上にあるタンパク質「プロテインチロシンホスファターゼζ」に結合し、これを不活性化する。これによって誤った信号が細胞内に入ることになり、その結果、上皮細胞が胃の基底膜からはがれることが胃炎、胃潰瘍発症につながると考えられる。2月24日付けのネイチャー・ジェネティックス(オンライン版)で発表された。なお、この成果は、JSTの戦略的創造研究推進事業「網膜内領域特異化と視神経の発生・再生機構」によるもの。

   ヘリコバクター・ピロリ菌は、世界の総人口の約50%に感染していると推定され、胃炎や胃潰瘍の原因の一つとされている。日本でも感染率は年齢と共に上昇し、七十代では85%に達している。これまで胃炎・胃潰瘍の直接の原因は、ピロリ菌が分泌するVacA毒素が胃粘膜の細胞内に多くの空胞を生じさせ、最終的に細胞を死に至らしめるためと考えられてきた。

   しかし今回、野田教授らのグループは胃粘膜の細胞膜上にあるタンパク質PtprZの遺伝子を人為的に欠損させたマウスを用いた実験により、VacA毒素による胃潰瘍の形成は、細胞の空胞化が直接の原因ではなく、VacA毒素が胃粘膜細胞のタンパク質PtprZに結合することによって細胞内へ誤った信号が伝達されるためであることを明らかにした。

   これまでタンパク質PtprZは神経系の細胞にのみ存在していると考えられてきたが、胃粘膜の細胞においても少ないながら存在していることが判明した。胃では、タンパク質PtprZの類似タンパク質が3種類存在した。これはマウスだけでなくヒトでも同様だった。また、タンパク質PtprZ遺伝子欠損マウスと普通の野生型マウスに対して、精製したVacA毒素を経口投与すると、2日後、タンパク質PtprZを持つマウスだけに胃潰瘍が発症した。これは、VacA毒素の経口投与により発症させた場合にのみ見られる現象であり、エタノール等による胃潰瘍発症では両遺伝子型で差が見られなかった。

   VacA毒素投与後5時間の時点で見ると、タンパク質PtprZをもつマウス、タンパク質PtprZを持たないマウスにおいて全く同様に、VacA毒素は胃粘膜細胞中に取り込まれていた。両マウスから胃粘膜の細胞を採取して培養し、これにVacA毒素を投与した場合にも、VacA毒素は等しく細胞内に取り込まれるだけでなく、同程度の細胞空胞化を引き起こした。この時、両細胞はVacA毒素によって同程度の細胞分裂阻害を受けたが、タンパク質PtprZをもつマウスの細胞だけが、VacA毒素投与後4時間頃から脱接着し始め、48時間後には全てはがれ落ちた。

   VacA毒素は、タンパク質PtprZに直接接合すること、またその結合はタンパク質PtprZを不活性化させることが判った。タンパク質PtprZが作用する細胞内の分子としてGIT1と呼ばれる分子を既に同定していたが、VacA毒素投与後、30分でGIT1のチロシンリン酸化レベルが上昇した。このチロシンリン酸化レベルの上昇はGIT1の付活化を意味している。GIT1は細胞の運動や接着、細胞内小胞の動態に関わるとされている分子であることから、細胞がはがれ落ちる現象に関与している可能性が高い。

   これまでの研究で、タンパク質PtprZに対して元来体内に存在するリガンドとしてプレイオトロフィン(PTN)を同定していたが、PTNの経口投与によっても胃潰瘍が発症することが示された。

   こうしたことから、VacA毒素は胃粘膜の細胞内に取り込まれ、細胞空胞化を引き起こすものの、それが胃潰瘍の直接原因ではない。むしろ、VacA毒素は胃粘膜の細胞膜上のタンパク質PtprZに結合し、そのリガンドとして作用することによってタンパク質PtprZを付活化し、この誤った信号が細胞内へ伝達されることによって、細胞内分子のチロシンリン酸化レベルの亢進を引き起こすこと、特にGIT1等、胃粘膜の細胞が胃の基底膜へ接着することに関わる分子の機能を損なうことによって脱接着を引き起こすことが、胃潰瘍発症の直接要因であることを示している。この発見は、胃潰瘍の予防・治療を効果的に行う上では非常に重要なものであると考えられる。



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