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筋収縮エネルギー変換機構分子レベルで解明
【ナノテク】発信:2007/08/28(火) 08:20:07
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JST・ERATO前田アクチンフィラメント動態プロジェクトの尾西裕文技術参事は、米UCSFのマヌエル・エフ・モラレス名誉教授らと共同で、筋肉の分子モーターであるミオシンの人工変異の研究から、筋収縮のエネルギー変換機構の全容を分子レベルで解明した。細胞運動や細胞内輸送を担うミオシン・ファミリー、さらには細胞分裂や神経軸索内輸送を担うキネシン・ファミリーでも極めて類似した機構が働いていることから、多くの生命現象を理解するための重要な成果だといえる。
筋収縮は、アクチンでできた細いフィラメントと、ミオシンでできた太いフィラメントの滑り運動によって起こる。ミオシンは生体内のエネルギー供給源であるATP(アデノシン三リン酸)を加水分解し、ATPから得られたエネルギーを使って、太いフィラメントから突き出したクロスブリッジ(ミオシン頭部)を櫂で漕ぐように動かす。こうして太いフィラメントが細いフィラメントの上を進み、2つのフィラメント間の滑り運動が起こると考えられている。
より詳細にみると、ミオシン頭部がアクチンフィラメントに近づいた時、最初に弱い結合の複合体ができて、その後に強い結合の複合体に変わる。弱い結合から強い結合に変わるところで、ミオシン頭部の深い割れ目(アクチン結合クレフト)が閉じ、この構造変化が引き金となって、ATPの分解物であるADPとリン酸がミオシンから離れる速度は速くなり、レバーアームの櫂漕ぎ運動が起こると想像されている。
これは、すべての動物が動くために必要な筋肉の中で働く最も基本的な化学反応であるため、その機構の解明が待たれていた。しかし、ミオシン頭部がアクチン分子に出会って結合し、その形を変えて滑り運動を起こすまでの経過を、アクチンとミオシンを構成するアミノ酸残基同士の親和力や反発力、構造変化などの現象で説明することは容易ではない。
研究グループは、モータードメインであるアクチンとの接触面にあたる領域のアミノ酸残基を人工的に次々にアラニンに置き換える、いわゆるアラニン・スキャニングと呼ばれるタンパク質機能研究法を使って、弱い結合と強い結合にはそれぞれ異なるアミノ酸残基が酸化することを発見し、昨年4月に発表した。弱い結合から強い結合に変わるときには、疎水性トリプレット、プロリンに富むループ、心筋症ループという構造が重要な働きをしていることなどを明らかにした。
今回の研究では、X線構造解析で得られたミオシンとアクチンの原子構造を使って、アラニン・スキャニングの実験結果を十分説明できる弱い結合の複合体の原子構造モデルを作製した。モデルでは、2つのリジンに富むループ領域は2つのアクチンのアスパラギン酸かグルタミン酸残基と結合していて、1つのミオシン頭部が2つのアクチンにまたがって結合していることがわかった。また、この弱い結合で既に疎水性トリプレットはアクチンに近接していることが分かった。
次に、弱い結合から強い結合に変換するとき、アクチンとミオシンの接触面に生じた力が、ミオシン内部の構造にどのような影響を与えるかを調べた。トリプレットとプロリンに富む2つの疎水性ループが、アクチン表面にある疎水性アミノ酸残基の並んだレールの上を移動することによって力が発生し、その力で小さいドメインがねじれ、クレフトを閉じることが明らかになった。
このねじれ運動は、さらに2つの構造変化を引き起こした。酵素活性中心の奥の出口を開けるため、まず閉じ込められていたリン酸が放出され、その後に活性中心全体が開いてADPの放出が続く。また、ねじり運動の影響は、小さいドメインにあるリレー・ヘリックスに伝わり、コンバーターを回転させるためにレバーアームの櫂漕ぎ運動を引き起こすことが明らかになった。
これらのことから、アクチンの結合で起こるミオシンの力発生の機構が完全に分子レベルで解明されたことになる。
生物界には、18種類を超えるミオシン・ファミリーが存在しており、筋肉ミオシンと同様に細いフィラメント上を動くことで機能している。このファミリーに属するモーターは我々の身体のあらゆるところに分布し、あるミオシンが臓器を形成するための細胞運動や形態形成で重要な役割を担い、別のミオシンは細胞内で物の輸送に関係している。それぞれの機能に対応して部分的に構造は異なっているものの、モーター駆動部の構造は非常に似ており、基本的に同じ機構で働くと考えられている。また、微小管上を動くキネシンもファミリーを形成しており、筋肉ミオシンとよく似た機構で働く分子モーターの一つと考えられている。今後、これらのモータータンパク質の類似性や相違性の研究が進めば、生命の神秘の一つ「動き」の本質が解き明かされることになる。
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